Go言語を学び始めて、C言語に似た概念や思想を感じる場面が増えてきました。
そこで、Go言語の開発の経緯や、C言語との類似点について調べたことをまとめてみました。
Go言語は2009年にGoogleから発表された、モダンな開発ニーズを見すえて設計されたプログラミング言語です。
Goの設計者である、ロバート・グリースマー、ロブ・パイク、ケン・トンプソンは、C言語の伝統を重要視しながらも、現代の開発に必要な機能を組み込み、開発者の用意性を増すことを目指しました。
設計思想:Cの影響とGoの革新
Goは、シンプルで効率的なC言語の設計思想を受け継ぎつつ、以下の点で「現代の開発ニーズ」に適応しました。
Cから受け継いだ「シンプルさと制御性」
- 制御構造のシンプルさ
Cのif
、for
、switch
などの制御構造はGoでもそのまま使われています。これにより、CやC++に慣れた開発者でも学びやすい。 - ポインタの導入(ただし限定的)
Goはポインタをサポートしていますが、ポインタ演算や直接的なメモリ管理を排除しています。これにより、Cの柔軟性をある程度保ちながら安全性を向上させました。
Goでの革新
- メモリ安全性
Goはガベージコレクション(GC)を採用し、メモリの解放漏れ(メモリリーク)や二重解放といったバグのリスクを軽減しました。Cではこれらをプログラマが責任を持って管理する必要がありますが、Goは開発者を解放しました。 - モダンな並行処理モデル
CではPOSIXスレッドやfork
を使って並行処理を実現しますが、これには複雑な同期処理が必要です。Goは「ゴルーチン」と「チャネル」を導入し、スレッドベースよりも軽量で扱いやすい並行処理を実現しました。 - 構文の明快化
Goは構文から冗長性を排除しました。たとえば、while
を排除してfor
に統一し、セミコロンを省略可能にしました。また、明示的なエラーハンドリング(if err != nil
)を推奨し、例外処理を廃止しました。
技術的な比較:Cの特徴をGoがどう進化させたか
メモリ管理
- C: 手動メモリ管理(
malloc
/free
) - Go: 自動メモリ管理(GC)
- GCにより、メモリ解放の煩雑さを解消し、コードの安全性を高めました。ただしGCによるオーバーヘッドがあるため、リアルタイムシステムには慎重な最適化が必要です。
並行処理
- C: POSIXスレッドやマルチプロセス(
fork
)を使用。手動でロックや同期を管理する必要あり。 - Go: ゴルーチンとチャネルによる軽量な並行処理モデル。
- ゴルーチンはスレッドよりも軽量で、メモリ消費も少ない。
- チャネルを使ったデータ共有により、ロックを必要とせず、安全かつ効率的な並行処理が可能。
コンパイル
- C: 非常に高速なコンパイルが可能。
- Go: 並列コンパイルを活用し、大規模コードベースでも非常に高速なコンパイルを実現。
- Goはコンパイラで依存関係を自動解決するため、開発者がMakefileなどを手動管理する必要がありません。
標準ライブラリ
- C: 標準ライブラリは小規模(
stdio.h
、stdlib.h
など基本的な機能のみ)。ネットワークや暗号化などは外部ライブラリに依存。 - Go: 豊富な標準ライブラリを提供(ネットワーク通信、JSON処理、暗号化、HTTPサーバーなど)。
- 小さなツールから大規模システムまで、追加ライブラリなしで多くの用途に対応可能。
エラーハンドリング
- C: 関数の戻り値でエラーを返すが、チェックを強制しない。
errno
を使う場合もある。 - Go: 明示的なエラーハンドリングを推奨(
if err != nil
)。- 例外ではなくエラー値を使う設計により、コードの予測可能性を向上させています。
Goが特に優れている点
- 並行処理のシンプルさ
- チャネルを活用した設計により、競合状態やデッドロックを回避しやすい。
- ビルド環境の統一
- Goでは標準で依存関係管理ができ、クロスプラットフォーム対応のバイナリを簡単に生成できます。
- モダンな開発環境
- Go Modulesで依存関係を簡単に管理。
- 内蔵の
go fmt
でコードスタイルを自動統一。
- 現代的なネットワークプログラミング
- ネットワークやWebサーバー開発が標準ライブラリのみで可能
CとGoの選択基準
どちらを使うべきかはプロジェクト次第です。
- Cが向いているケース
- 制約の厳しいシステム(組み込み、OS、ドライバ)。
- 極限までのパフォーマンスが求められるアプリケーション。
- Goが向いているケース
- モダンなWebアプリケーションやマイクロサービス。
- 短期間での開発が求められるプロジェクト。
- 並行処理が必要なアプリケーション。
Go言語の3人の生みの親について
1人目:ロバート・グリースマー(Robert Griesemer)
- 役割: Go言語のシンタックス設計の中心人物。
- 背景と業績
- スイス出身の計算機科学者。
- 以前はGoogleでJavaScriptエンジン「V8」の設計と開発に関与(後にChromeに採用)。
- コンパイラ設計に精通しており、Goのシンプルで効率的な構文設計に大きな影響を与えました。
- 貢献
- Goの直感的でわかりやすい文法設計。
- 「シンプルさ」と「使いやすさ」を重視したGoの基礎構築。
2人目:ロブ・パイク(Rob Pike)
- 役割: Goの設計思想の推進者。特に並行処理の仕組みにおいて重要な貢献をしました。
- 背景と業績
- 元ベル研究所(Bell Labs)でUnix開発に携わる。
- Ken Thompson(後述)らと共に、Plan 9やInfernoなどのOSを開発。
- 「The Unix Programming Environment」など、Unixに関する重要な著書を執筆。
- 並行処理とネットワークプログラミングの専門家であり、Goの「ゴルーチン」や「チャネル」の設計において中心的な役割を果たしました。
- 貢献
- 並行処理モデル(ゴルーチンとチャネル)。
- 実用性を重視したGo言語の哲学(簡潔で明確なコードを書く思想)。
3人目:ケン・トンプソン(Ken Thompson)
- 役割: Goの核となるシステム設計に貢献。
- 背景と業績
- コンピュータサイエンス界の伝説的人物。
- Unixオペレーティングシステムの共同開発者(Dennis Ritchieと共に作成)。
- C言語の設計にも関与。
- ベル研究所にて、B言語(C言語の前身)を設計。
- Googleでの勤務中にGoのプロジェクトに参加し、Goのシンプルで効率的な言語設計を後押ししました。
- 貢献
- シンプルでパフォーマンスに優れた設計思想。
- コンパイラとランタイムの構築に関する深い専門知識。
3人がGo言語を作った理由
彼らは、Googleの開発者として日々の業務で感じていた以下の問題を解決するためにGoを設計しました:
- 巨大なコードベースにおけるコンパイル時間の遅さ。
- 複雑化したプログラミング言語(例:C++)の扱いづらさ。
- 並行処理を容易にする言語の欠如。
これらの課題を解決し、**「シンプルかつ効率的でモダンなプログラミング言語」**を目指してGo言語を開発しました。
Go言語開発の背景
Goは2007年に開発が始まり、以下の設計思想に基づいて作られました:
- シンプルでわかりやすいコード
- 学習コストを下げ、効率的にコードを書けるように設計。
- 高速なコンパイル
- 巨大なコードベースでも迅速にビルド可能。
- 並行処理の容易さ
- モダンなシステム(クラウド、マイクロサービス)に適した並行処理モデルを提供。
- 実用性
- 開発者が日常的に直面する課題を解決するための実用的なツール。
まとめ
- ロバート・グリースマー: 構文設計のスペシャリスト。
- ロブ・パイク: 並行処理と実用性のリーダー。
- ケン・トンプソン: システム設計の巨匠。
彼ら3人の豊富な経験と哲学が融合し、Go言語が誕生しました。その結果、Goはシンプルでパフォーマンスが高く、モダンなプログラミング課題に対応した言語として、多くの開発者に支持されています。
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